白い手

ノクターンをBGMに、ポアンカレ予想を解いた人物に思いを馳せる。
100年にわたって誰も解けなかった難問に答えを出した人物とは・・・。
彼は果たして、そこに何を見たのか・・・。
ぐるぐる回る木馬か。それとも宇宙の果てか。

アルコールがまわってきた。
不意に声をかけられて、長いことロックアイスを睨みつけていたことに気がついた。
店は、先程より賑わいを増している。

10人も入れば肩が触れ合うほどの、隠れ家のようなバー。
壁には古いポスター。
カウボーイスタイルの美女が、大きく開いた胸元を強調するようなポーズでコークを飲んでいる。
いやらしくないセクシーさというものが存在するかどうか。
などと、どうでもいいことを考えてしまう。

普段は、淋しさを背負ったまま飲みたいときに利用する店だが、
今夜は、そろそろ潮時かもしれない。

そう思ったとき、目の前のタンブラーが不意に浮き上がった。
今しがた声をかけてきた隣の女性は、しなやかな動きでグラスを掲げると、
「訳ありみたいね。一杯奢らせて。」
と、抑揚の無い声で言った。
どうやら、無反応な私に少々苛立っているらしい。

それも分かる気がする。
物思いに耽っていた私は、彼女の顔も見ずに「どーも」と言ったっきり黙りこんでいたのだから。

一夜明けて、アルコールの影響下を逃れた後も、彼女の顔は思い出せない。
やけに白い肌と、そのぬくもりだけが、今もぼんやりと夢のように流れていく。


動き出した街の空気を肺に押し込んで、ゆっくりと吐き出した。
タバコに火をつけたが、不味いのですぐに消す。
ここのところ、あまり調子がよろしくない。

近くのカフェに入ると、エスプレッソを注文した。
不機嫌そうなおやじがカウンターの向こうで愛想笑いを浮かべた。

コルトレーンのライブ音源が、古いスピーカーを震わせている。
何という曲だっただろう・・・。

思い出そうとすればするほど、記憶はあやふやになり、霧の中に沈んでいく。

彼女の顔も、大切なヒトの手のぬくもりも・・・。



差し伸べられた細い手
助けようと手を伸ばすが届かない

助けようとして、助けられた

よく分からない高揚と苛立ち

目を覚ますと天窓から日が差していた

白い手だけがやけに鮮明に記憶に残っている

白く細い指。その温もりや冷たさを感じるほどに近く

そして遠い。

また、あの夢・・・。


声は無い。顔も思い出せない。


朝食の支度が出来たと伝えに来た家人に、

張り付いたような笑顔を返す。


夢は夢だ。私は、ここに居る。目覚めれば、ただそれだけのこと。

顔を洗って、悪夢を振り払うように大きく頭を振った。


リビングには朝の光が溢れていた。

“生活”がそこにあった。


暖かいスープを口に運びながら、また、白い手のことを考えていた。

昨晩は、床に入っても寝付けず、やりかけた仕事を片付けようと抜け出した。

どうやら、そのまま眠ってしまったらしい。



現実に戻るための儀式のようにエスプレッソを淹れる。

何故か落ち着かず、コーヒーカップをもてあそぶ。


これが、日常だと実感する。ある種の諦めとともに・・・。
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by leiji_loka | 2009-12-29 22:48 | word only

心に映る事象の記録


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